日本では太極拳が広く行われるようになって、約40年が経ちます。近年では長拳、南拳や各種の伝統拳術が若い人々の間で行われています。中国武術は国際的には「武術」の中国語の発音、WUSHU(ウーシュー)の名称で普及しています。太極拳は武術(WUSHU)の中の一種目でありますが、日本では太極拳の愛好者人口が圧倒的に多いことから、太極拳と各種の中国武術、中国拳法を総称して、「武術太極拳」の名称で普及を進めています。最近の普及・発展は顕著なものがあり、日本での愛好者人口はすでに100数十万人となり、うち女性は約7割、男性は3割位で、若い人の関心が近年高まっています。競技者人口は7万人(ジュニア年代約1万人)と言われています。
中国武術の起源は数千年前に遡りますが、14世紀から20世紀初めにかけて特に目覚ましく発達して、打つ、蹴る、投げる、つかむ、刺す等の技法を組合わせた数多くの武術の流派、種類が生まれました。現在行われている武術は200~300種類あると言われ、力強く速い動作を主体にしたものから軟らかく、巧妙な技を使うものまで多岐にわたります。
格闘技としての武術は、社会情況の変化につれて、しだいに健身、体育種目として心身の鍛練と修養を目的とするようになりました。合理的でかつ、高度な技術体系を有する運動であり、これを行うことに芸術表現の喜びを得ることもできるため、近年、日本、アジア諸国や欧米各国でも広範な社会層の愛好者人口を得るに至っています。
日本では太極拳技能検定制度が1995年から全国的に導入、実施され、愛好者に目標を与え向上心を促すものとして歓迎され、太極拳の普及振興を進めるうえで大きな役割を果たしています。太極拳に加えて、長拳技能検定制度も2001年度から開始となりました。太極拳活動を通じた「健康づくりの輪」が広がる一方で、長拳技能検定の実施により少年・児童はじめ若年層へのカンフー体操、長拳の普及促進に弾みがつき、武術太極拳はより幅広い年齢層の人々が体力と興味に応じて親しむことのできる国民スポーツとしてさらに大きく成長するものと期待されています。
日本武術太極拳連盟は1987年4月に発足し、1988年12月に文部省(現在の文部科学省)より社団法人の認可を受け、2012年4月には内閣府より公益社団法人として認可を受けました。現在、47都道府県すべてに都道府県連盟が発足し、ほぼ全ての都道府県連盟が都道府県スポーツ(体育)協会にそれぞれ加盟しています。
全国競技大会として毎年、春に「全日本武術太極拳競技大会」および「JOCジュニアオリンピックカップ武術太極拳大会」、夏に「全日本武術太極拳選手権大会」秋に「国体公開競技『武術太極拳』競技会」がそれぞれ開催されています。生涯スポーツの全国大会としては、厚生労働省等の主催による全国健康福祉祭(ねんりんピック)で正式実施種目として<太極拳交流大会>が行われています。各都道府県においても、「県民ねんりんピック」「県民長寿体育祭」等の名称で実施されている生涯スポーツ大会で武術太極拳が広く行われるようになっています。
また、各地で武術太極拳交流大会、武術太極拳選手権大会・競技大会等が活発に開催されています。1997年12月に正式発足した日本学生武術太極拳連盟(学生連盟)も毎年、交流大会を開催しています。学生連盟の今後の大きな発展が期待されています。
武術太極拳は、国際競技スポーツとしても大いに発展してきました。4年に1度行われるアジア競技大会では、1990年の第11回北京大会で正式種目に採用され、第18回インドネシア・ジャカルタ大会(2018)まで継続しています。2023年に中国・杭州で開催予定の第19回大会、2026年に名古屋・愛知で開催予定の第20回大会でも実施されます。
世界選手権は1991年に北京で第1回が開かれ、その後隔年で開催されています。また、その翌年には、前年世界選手権の上位入賞者のみで争われる「武術太極拳ワールドカップ」が開かれます。次回は2024年秋に日本で開催される予定です。
2026年には「夏季ユース五輪ダカール大会」の新競技としても追加されることが決定しています。
東アジア競技大会は第1回大会(1993年、中国・上海市)以降、第6回大会(2013年10月、中国・天津)まで開催されましたが、今後「アジアユースゲームズ」として開催されることになり、2026年の開催予定で準備が進んでいます。
2015年8月には中国・南京で国際オリンピック委員会(IOC)主催の「第2回ユース五輪」が挙行され、武術は「トーナメント競技」として実施され、2017年8月には台湾・台北で開催された大学生のオリンピックとも呼ばれる「第29回ユニバーシアード競技大会」にも初採用されました。ユニバーシアードは「ユニバーシティゲームズ」と名称変更となり、2023年に中国・成都大会で再び武術太極拳が種目として採用されています。
また、青少年を対象とした「世界ジュニア武術選手権大会」は2006年にマレーシア・クアラルンプールで、「アジアジュニア武術選手権大会」は2001年にベトナム・ハノイで、それぞれ第1回大会を開催し、その後隔年で実施されています。
試合形式には、一定のルールのもとに相手と格闘して勝負を決めるもの(対抗性競技)と、一定の動作を演武してその技術水準を評価するもの(演武競技)の2種類があります。
演武競技は、定められた時間とルールにもとづいて1人(組)ずつ演武し、審判員が与える得点によって順位を決定します。アジア武術選手権大会、世界武術選手権大会では演武競技として太極拳、太極剣、南拳、南刀、南棍、長拳、剣術、刀術、槍術、棍術等の種目が行われています。
演武競技は選手が各種目の武術の特徴を備えた足技、打法、跳躍技などを自分で組み合せて演武する自由演技で競われてきました。しかし、武術の国際化の流れのなかで、各国の選手の技術の向上を促進し、また、採点をより合理的に行うために、武術競技用統一規定演武(規定套路)が定められ、北京アジア競技大会から採用されました。
その後、世界的な技術レベル向上により、より選手の個性や特徴を生かせる競技形式が求められるようになり、2005年に新たな「国際武術競技ルール」が定められて、難度の高い動作を含め、技を自由に組み合わせて行う自由選択演武(自選套路)が採用されました。
しかし、成長段階にあるジュニア選手については、過度の競争による身体への影響を避けるため、引き続き統一規定演武で競技が行われています。
その後、2019年にルール改訂が行われ、日本でも国際大会の代表選手を選抜する競技種目では、最新版ルールを採用しています。
競技の採点は10点満点で行われます。トップアスリートによる「自選難度競技」では審判員がA(動作の質とその他のミス)5点、B(演技レベル)3点、C(難度動作の成否)2点の3グループに分けられ、それぞれの点数を合計し、選手の得点とします。グループ分けすることにより、審判の職責が明確になり、また相互の影響・関与が避けられ、より客観的な評価ができます。
年齢の低いジュニアや愛好者は「無難度競技」として行われ、A(動作の質とその他のミス)5点、B(演技レベル)5点の2グループで審査をします。